頭部外傷
(転倒、転落、交通事故)
頭部外傷とは交通事故、転倒、第三者行為などで頭部に外力が加わることで起こる、頭皮・頭蓋骨・脳の損傷です。日本では年間約30万人の頭部外傷患者が発生し、不慮の事故による死亡は死因第5位を占めており、重要な対象疾患と考えられます。また高齢化の流れの中で、どうしても転倒される方が増えており、頭部外傷の診療を適切に実施することがとても大切となります。また近年、未成年者(特に成長期のお子様)の場合はCTによる被爆を避けた方が良いというデータが論文で発表されております。MRIは放射線を使用せずに、頭蓋内部のことについてはCTよりも詳細に検査することが出来ます。当院ではMRIによるお子様にとって低侵襲な検査を実施します。頭部外傷を損傷部位によって下記の通り分類し、ご説明させて頂きます。
1. 皮膚の損傷
頭皮は血管が豊富で、少しの傷でも出血量が多くなります。また頭皮は頭蓋骨や頭蓋内静脈と連絡があり、皮下感染を起こすと、免疫力の低い方では頭蓋内に細菌が侵入し、頭蓋内の感染=脳膿瘍などを起こすこともあります。皮膚の損傷は下記の通り分類することが出来ます。
a. 皮下血腫
いわゆるたんこぶです。大きさにもよりますが、血腫が吸収されるまで2週間から1か月程度かかることもあります。血腫が重力で顔面の方に移動して、お顔が紫や黄色となってしまうことがありますが、こちらも改善するのに同様の期間を要することが多いです。
b. 擦過傷
縫合が不要と考えられる浅い傷で、いわゆる擦り傷のことです。表皮が剥離した状態で、洗浄の上、清潔を保って下されば1週間から2週間で自然治癒します。
c. 挫創
縫合が必要と考えられる深い創です。ステイプラーもしくはナイロン糸による縫合を実施します。重要なポイントは、創部の状態と患者様の栄養状態や免疫状態により感染を起こしやすい場合があるということです。創部はよく洗浄し、消毒の上、縫合を実施し、抗生剤を処方させて頂きます。創部に問題がなければほとんどの場合は1週間後に抜糸・抜鉤(ステイプラーの場合)を行います。もしも、感染や創部の治癒が遅れているようであれば、近医の形成外科をご紹介させて頂くことがあります。
2. 頭蓋骨の損傷
頭蓋骨の骨折は下記のようにその性状により2つに分類されます。また部位による分類もありますが、ここでは割愛させて頂きます。
a. 線状骨折
手足の骨折と異なり、骨が大きく変位することはまれで、いわゆる骨にヒビが入った状態です。転んで頭を打った場合は円蓋部(下図)という部分が骨折することがほとんどです。受傷当日は頭蓋内に出血が認められなくても、入院による経過観察が推奨されています。これは非骨折例と比較して、頭蓋内出血を起こす確率が300倍高いと言われているからです。また、成人では線状骨折自体がその後に問題をきたすことは少ないのですが、成長期のお子様の場合は骨折部位がうまく成長できず、頭蓋骨に穴が開いたしまうgrowing out fractureという状態になることが稀にあります。お子様の骨折の場合はその後のフォローアップが重要となります。
b. 陥没骨折
線状骨折とことなり、複雑に骨が折れて、脳側に凹んでしまう骨折です。線状骨折と比較すると重症で、陥没の程度が大きく、脳への圧迫が強い場合は待機的に手術を要することがあります。また骨折部位の硬膜が損傷し、外界と交通してしまっている場合は脳脊髄液と言われる脳が浮いている液体が流出してしまうので、緊急で手術となることがあります。
3. 脳の損傷
脳の損傷とは骨の内側に出血が生じ、血腫となり、脳を圧迫する状態です。一般的にヒトの出血は6時間程度で止血されると言われていますが、抗血栓薬、いわゆる血液サラサラの薬を内服されている方や肝臓が悪い方などでは24-48時間だらだらと出血が続くことがあります。時間が経過しているから自分は大丈夫だと思わずに、受傷後少してからでもMRI検査を実施する意義はあります。頭蓋内出血を認めた場合は下記で説明致しますが、手術加療が必要となることがありますので、入院加療を要しますので、近医の総合病院をご紹介させて頂きます。頭蓋内の出血部位により下記の通り分類されます。図をご参照ください。それぞれの特徴と臨床的に重要な点をまとめました。
a. 急性硬膜外血腫
硬膜と頭蓋骨の間に血腫がたまり、脳を圧迫します。頭蓋骨に付随して、硬膜の血管である中硬膜動脈が破綻することで生じます。脳外科医の間では有名でlucid intervalというものがあり、意識清明の後に突然急変することを特徴とします。早期の診断が明暗を分けます。
b. 急性硬膜下血腫
脳と硬膜の間に血腫がたまり、脳を圧迫する状態です。a.急性硬膜外血腫と比較して、重症となることが多いです。これは硬膜に比べて、脳が柔らかく、血腫による圧迫でどんどんと脳が変形していってしまう為です。脳幹を圧迫した場合は命に関わりますので、可及的速やかに開頭術を実施し、血腫を除去する必要があります。
c. 外傷性くも膜下出血
いわゆるくも膜下出血(動脈瘤などによる)とは異なり、これ自体で重篤な病態となることは少ないです。くも膜下腔と言われるスペースに出血することで、血腫となり脳を圧迫することは稀です。出血は静脈性であることが多く、止血は比較的早めに完了することが多いです。
d. 脳挫傷
脳自体が損傷することで、前頭葉下面や側頭葉先端部などに多いです。初期の脳挫傷はCTで診断が難しいことがあります。MRIでは初期でも問題なく診断が出来ます。前頭葉が両側性に損傷した場合は人格が変わるなどと言われますが、脱抑制の状態となり、うまく自分をコントロール出来なくなってしまうことがあります。また挫傷してしまった脳は元通りになることは難しく、将来的にてんかん発作が原因となることがあります。高次脳機能障害という症状を来すことがあるので、入院の上、リハビリの先生から評価が必要となります。