めまい
めまいはその7割が原因不明と言われています。
めまいは大きく分けて、脳から来る中枢性と耳から来る内耳性、貧血などによる全身性に分別することができます。
以下のような疾患が鑑別となります。めまい診療のポイントは症状の重症度と病気自体の重大さが一致せず、MRIによる器質的異常の除外が特に重要となります。
中枢性
小脳梗塞
小脳に分布する血管の閉塞により発症する脳梗塞です。
小脳には椎骨動脈、脳底動脈というとても重要な血管から分枝する上小脳動脈、前下小脳動脈、後下小脳動脈という3つの主幹血管が分布しています。
左右1本ずつ走行しており、これらが動脈硬化や遠位からの血栓などにより閉塞した場合にその遠位側の小脳領域が梗塞となります。
症状としてはめまいの他に悪心、嘔吐や体幹失調(麻痺はないが、立てない、座れないなどの症状)が出現します。MRIにて診断できます。
小脳腫瘍
小脳に出来る腫瘍で頻度が多いものは転移性小脳腫瘍、神経膠腫、血管芽腫、髄芽腫です。
転移性脳腫瘍は全脳腫瘍で最多の頻度で、肺癌や乳癌などからの転移であることが多く、単発で長径3cm前後より大きい場合には摘出が考慮されます。
また、脳脊髄液の通り道を塞いで水頭症となることもあります。
血管芽腫は血流量のとても多い良性腫瘍です。
脊髄にも多発し、VHL病という遺伝性疾患とも関連があります。
摘出前の腫瘍血管塞栓は危険性が高く一般的には行いません。
髄芽腫はそのほとんどが小児に発症する疾患です。
お子様で頭痛や頻回の嘔吐などがある場合は放射線被爆のないMRIによる髄芽腫の除外が有用です。
小脳腫瘍(血管芽腫)
小脳腫瘍(乳がん原発 転移性脳腫瘍)
聴神経腫瘍
聴神経(正確には前庭神経であることが多い)から発生する良性腫瘍で、周囲の蝸牛神経や顔面神経、小脳に影響を及ぼし、聴力低下、めまい、顔面神経麻痺などの症状を来します。
腫瘍の診断や大きさの確認には造影MRI検査が有用で、他の鑑別を要する疾患である小脳橋角部髄膜腫や比較的稀なエピデルモイド、三叉神経鞘腫などの除外もできます。
対処方法としては1.経過観察 2.手術加療 3.放射線治療があります。それぞれ一長一短があり、患者様ごとにオーダーメイドの方針が必要となります。
脳幹梗塞
脳幹という言葉を聞くと重篤な疾患であることを考えてしまいますが、脳幹出血と比較すると意識障害となることは少なく、(眼球運動障害 or 嚥下障害) ± 麻痺の発症形式をとることが多いです。
詰まってしまう血管は脳底動脈という太い重要な血管から分枝する穿通枝という0.2mm程度の血管です。
よって脳梗塞のタイプはラクナ梗塞というものになります。全てのタイプの脳梗塞は発症4.5時間以内ではtPA(アルテプラーゼ®,グルトパ®)という血栓溶解療法が適応となります。
物が二重に見える複視症状がある場合や嚥下困難感(いつもよりよくむせるなど)がある場合はなるべく早期にご受診頂くことを推奨します。
橋梗塞
椎骨-脳底動脈解離
後頭部から首の後ろの痛みで発症することが多い病気ですが、それにめまいを伴う場合や疼痛なく、めまいのみで発症する場合もあります。
椎骨動脈-脳底動脈という脳幹と小脳に血流を送るとても重要な血管に解離という血管の内膜にひびが入ることで起こる病気です。
血管の内膜は痛み神経が走っていますので、ひびにより疼痛を生じるのが頭痛の原因です。
診断には血管の画像が必要で、CTでは困難です。
MRAという画像検査により診断することが出来ます。
この病気の恐ろしいところは頭痛のみの発症であったのに症状が進行し、脳梗塞となる場合や最悪の場合出血してくも膜下出血となり、致死的な経過を辿るということです。
発症1週間以内に血管の破綻した内膜がダイナミックに変化するので、早期の診断と加療が必要です。治療としてはまずは降圧加療を行います。
内耳性
良性発作性頭位変換めまい症
頭を動かした時、特に寝返り時などに発症する、視界がぐるぐる回るようなめまいを生じる病気です。
内耳にある前庭という部分の異常をきたす疾患です。
めまい症状の程度は発症ごとに大幅に異なり、少しめまいがするものから、頻回の嘔吐を伴い、全く目を開けられない程のものまであります。
MRIで脳梗塞・脳腫瘍が否定され、難聴症状がなく、採血でも大きな異常がない場合は除外的に診断されます。
メニエール病
体の平衡感覚を司る耳の奥の内耳にリンパ液が貯留することにより生じる病気です。30-50歳代に多く、めまいの他に軽度の聴力低下や耳鳴りなども合併します。
再発を繰り返し、徐々に聴力が低下していくことが特徴となります。
現代医学でははっきりとした原因が分かっておらず、多要因による発症する病気と考えられています。
前庭神経炎
前庭神経は内耳から脳にバランス感覚などの情報を与える神経で、聴神経腫瘍の原因神経としても有名です。
前庭神経炎では難聴や耳鳴りは生じません。
また良性発作性頭位変換めまい症との違いとしては先行感染(風邪など)があることが多い点です。
治療法は同様で安静、対症療法薬の投与となります。
全身性
貧血
若年では鉄欠乏性貧血(栄養不足)、高齢では消化管出血(消化性潰瘍や大腸癌などによる)から慢性的出血によるものが多いです。
黒色便があるかどうかは重要な情報となります。また採血や便潜血検査も有用です。
起立性低血圧
立位となると自律神経が、適切な血管収縮を促し、重力に血流が負けて脳が虚血とならないように調整を行っています。
加齢の影響、薬剤の影響、小児の未発達による機序などで血圧収縮がうまくいかずにめまいや失神を起こすことがあります。
脳卒中の方では過度の降圧により誘発される可能性があるので、普段からの血圧測定によるモニタリングが重要となります。
心臓・大血管系の疾患
心筋梗塞や狭心症などの心虚血疾患や大動脈解離などの大血管疾患によりb.の起立性低血圧と同様に頭蓋内に血流が減少もしくは途絶し、めまい・失神などを起こす病態です。
ほとんどのケースでは特徴的な胸痛や冷汗などを伴い、めまいのみの症状で来院されることは稀と考えます。
しかしながら、稀であっても診断が遅れると命に関わる疾患ですので、少しでも心血管疾患が疑われる場合は心電図や採血などで積極的に精査を実施します。