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しびれ・異常感覚

しびれや異常感覚などの感覚障害に対する診療においてはその分布が重要な要素となります。大きく分けて、脳に由来するもの、脊髄から神経根に起因するもの、末梢神経によるもの、全身性の代謝疾患などを原因とするものがあります。臨床的兆候と画像、採血検査などで鑑別します。下記のような分類となります。

1.脳に由来するもの

大脳皮質の感覚野~感覚神経の線維が走行する部位に異常をきたすと症状が発現します。

a.脳梗塞・脳出血

代表的なものは脳梗塞や脳出血などのいわゆる脳卒中です。頭部MRIでは脳梗塞の診断はもちろんの事、発症時期(急性期か、亜急性期か、慢性期かなど)まで推定することが出来ます。また脳出血や脳梗塞に伴うしびれなどの不快感覚は運動機能と異なり、後遺症となってしまうことがよくあります。人によってはリリカ®というお薬が著効する方もいますが、効果は一部に限られます。うまく付き合っていく方法を一緒に模索しましょう。

b.脳腫瘍

大脳の感覚野付近や感覚神経が走行部位に局在する腫瘍であれば、感じ方の障害のみをきたすことがあります。感じ方の障害とは軽度ではしびれから重度だとその部位にビニールや手袋をつけて物に触れているような感覚鈍麻となります。MRIではCTのみでは発見が難しい低悪性度神経膠腫や小さな転移性脳腫瘍などの腫瘍を含めて、原因となる腫瘍を幅広く診断することが出来ます。腫瘍と診断すれば少なくとも生検術と後療法(化学療法や放射線療法)などが必要とあるので近医の高次医療機関の紹介させて頂きます。

c.てんかん発作

しびれが発作的に起こる場合はてんかん発作の一症状の可能性があります。診断的治療となりますが、他疾患ではないことを確定することが出来れば抗てんかん薬によるてんかん発作予防治療を行います。

d.多発性硬化症

多発性硬化症は免疫細胞が中枢神経や視神経を攻撃して、炎症を引き起こす病期です。30-40歳代女性に多く、7.7人/10万人の頻度です。空間的(脳、脊髄の色々な場所)に、また時間的(何度も)に多発するのでこの名前がついています。手足の感覚の鈍さ、ものが二重にみえる(複視)、場合によっては認知機能低下や排尿障害などが症状として出現します。神経診察の他、髄液検査、MRIにて診断可能です。治療はステロイド大量療法や血液浄化療法となります。

2.脊髄から神経根に由来するもの

a.頚椎症神経根症

頚椎症とは加齢により椎間板の膨隆や骨棘が形成される病期で、これらの変化により脊髄から分枝した、感覚神経や運動神経が走行する神経根が圧迫される病気です。中年-高齢の方に好発で、手や足の一側性のしびれが特徴です。診断はX線で頚椎症性変化を認めることと、MRIにて神経根の圧迫があることを証明して、行います。基本的に自然治癒する疾患ですが、頸椎を後方へそらせないようにする姿勢矯正も重要です。筋力低下が強い場合や痛みが激しいときは手術加療を行う場合もあります。

b.脊柱管狭窄症

脊柱管が加齢性の変化や腰椎すべりにより狭窄し、神経根や神経栄養血管が圧迫される病気です。間欠性跛行と呼ばれる、歩き始めるたり、運動時に起こり、立ち止まると治る、足のしびれや痛みが特徴です。前屈位で下肢痛が軽快すること、立位のみで下肢痛が誘発されることが疑うポイントとなります。

c.脊髄腫瘍

脊髄腫瘍は、脊髄や脊椎に由来する原発性脊髄腫瘍と、他臓器から転移した転移性脊髄腫瘍があります。脊髄を腫瘍に圧迫することで症状が発生する病気で、首、胸、腰のどの部分に腫瘍ができるかによって症状が異なります。診断にはMRIが重要で、大きさや局在(髄内なのか髄外なのかなど)を確認することができます。原発性脊髄腫瘍の治療は基本的に外科治療ですが、転移性であれば放射線治療や化学療法を行われます。

3.血管性

閉塞性動脈硬化症

動脈硬化などにより足の血管が細くなることもしくは詰まるこで、血流障害が起こる病気です。脊柱管狭窄症と同様に間欠性跛行をきたすことが特徴です。足の血管が触れなくなることが疑うポイントです。

4.末梢神経障害(単神経障害)

末梢神経のしびれでは単神経の症状が多いです。つまり右手だけや左足だけなど部位が限定されていることが多く、診断に重要な所見となります。下記のように分類されます。

a.手のしびれ、痛み

手根管症候群

手首から手のひらの真中には正中神経という神経が走行しており、この神経は手首付近で骨のトンネルを通ります。過労働などによりトンネル部で神経が傷むことで、指先にしびれをきたす病気です。末梢神経障害の中で最多で、手のひらから、親指、人差し指、真中指、薬指半分のしびれが起こります。しびれは朝方、自転車や車の運転時などに多く起こります。治療としてはまずは安静で、なるべく手を使わないようにします。改善が乏しい場合や、しびれや痛みが強かったりする場合、局所麻酔下での手術を行うことがあります。

肘部管症候群

肘の内側の部分で、尺骨神経という神経が傷むことで、小指側にしびれや手の細かい動きが上手にできなくなる病気です。末梢神経障害の中で2番目に多く、日常よく遭遇する病気です、症状としては手首あたりから先の小指側がしびれますが、薬指は小指側の半分しかしびれないことが特徴です。また、肘を曲げていると症状が強くなるのも診断に有用な所見です。治療の第一は安静で、なるべく肘を曲げないようにします。しびれ、痛みが強かったり、手の筋肉が痩せてきて、細かい動きが上手にできなくなってきた場合、手術を行うことがあります。

b.腰やおしりの痛み

上殿皮神経障害

腰の皮膚に分布する上殿皮神経という神経が傷むことで腰痛を起こす病気です。全腰痛の約15%を占めるとの報告もありますが、実際に診断されずに見逃されていることが多いようです。腰をひねったり、起き上がったり、歩いたりすることで腰痛が強くなること特徴で、腰部に強い圧痛があることが診断の助けとなります。治療は薬やコルセット、理学療法などの一般的な腰痛治療で、それでも効果が薄い場合は注射による上殿皮神経のブロック治療を行います。

梨状筋症候群

坐骨神経という骨盤からでて足へ走行する神経が梨状筋という筋肉のトンネルを通ります。梨状筋が過労により硬くなってしまい、坐骨神経を圧迫してしびれがでる病気を梨状筋症候群といいます。臀部外側に痛みがあり、大腿部後面にしびれがでるのが特徴で、長く座っていると症状は増悪、歩くと軽減することも診断の一助となります。症状が強い場合には、上殿皮神経障害と同様に梨状筋ブロックで効果をみます。効果が乏しい場合は手術を行うこともあります。

c.足のしびれ、痛み

腓骨神経障害

腓骨神経は膝外側にある腓骨骨頭という骨のでっぱりを外側から下側へまわりこむように走行します。腓骨神経はこの部位を損傷しやすく、足を組んだり、タイトなストッキングを頻回に履いているなどの日常生活動作で損傷してしまうことがあります。すねの外側から足の甲にかけてしびれや痛みが特徴で、歩行でしびれが増悪し、歩けなくなることもあります。更に症状が強くなると、足先を上にあげづらくなり、階段を昇ることが難しくなります。このような歩き方を鶏歩とも言います。原因がある場合はそれを除去し、内服薬を服用して経過をみます。症状が強い場合には、手術を行うこともあります。

足根管症候群

足底に分布する神経は、足首の内側の部分を通りますが、この部分が狭いトンネルで動脈、静脈が伴走しているので、神経が損傷しやすく、痛むと足根管症候群となります。かかと以外の足の裏から足の指にかけて、しびれて痛くなります。足底部の異物付着感や冷え症状を感じます。原因がはっきりしている場合は、原因を除去し、内服薬で経過をみます。症状が強い場合には、手術を行うこともあります。

5.全身性の手足のしびれ(多発神経障害)

1-4のしびれとは異なり、左右両側性に、かつ手足ともにしびれ症状が出現することが多いのが下記の疾患群です。既往歴、内服歴、採血データなどで診断ができる可能性が高いです。

糖尿病

糖尿病の3大合併症は最終的に目が見えなくなってしまう可能性のある網膜症、透析となってしまう可能性のある腎症、手足に強いしびれを生じたり、血圧をうまくコントロールできなくなったりする神経障害あります。これらは慢性経過で段々と出現してくるものもありますが、神経障害についてはある日突然なってしまうこともあります。我々脳外科医がよく遭遇するものが二重見えてしまう複視の一原因として動眼神経という眼球を動かす神経の単神経麻痺があります。これは糖尿病によるものが多いです。

尿毒症

慢性腎臓病で透析が必要な状態ほど悪化するとしびれ症状が手足に出現することがあります。採血にてCre(クレアチニン)という値を測定すると腎臓病の診断が可能です。

ビタミン欠乏

栄養失調が多かった時代は脚気として知られていたのがVit B1欠乏症です。末梢神経障害の他、ウェルニッケ脳症→コルサコフ症候群と進行する認知症の一種となる中枢神経症状もあります。治療はVit B1補充療法を行います。また胃全摘後の方や肉を摂取しない方に起こりやすいVit B12の欠乏でも末梢神経障害は起こります。貧血と舌の炎症が合併することがあります。VitB12の補充療法(メチコバール®)にて改善が期待できます。

アルコール性末梢神経障害

アルコール自体により神経に対する障害とVit B1欠乏による機序があります。禁酒とVitB1補充療法で改善の可能性があります。

ギランバレー症候群

自身の免疫細胞が末梢神経を誤って攻撃し、末梢神経障害を起こす病気です。先行感染があることが多く、症状の1-3週間前に風邪をひくなどのエピソードがあります。症状はピークが1か月以内ですが、10-20%の方に後遺症が残ります。ものが二重に見える(複視)も症状のひとつとして有名です。先行感染があり、両側性に脱力・しびれ症状があり、複視があれば本疾患を強く疑います。検査は脳脊髄液検査や採血による抗体検査を実施します。脳脊髄液検査では腰椎穿刺が必要となりますので、近医高次医療機関をご紹介します。

薬剤性

薬剤性のものだと抗がん薬による末梢神経障害が有名ですが、他にも脂質異常症治療薬や抗ウィルス薬、抗結核薬も原因となります。多くの場合、手足の指先の軽いしびれから始まります。症状が進むにつれて、しびれや痛みが強くなり、服のボタンがとめにくい、ペットボトルのキャップが開けられない、パソコンのキーボードが打ちにくい、手に持ったコップやお茶碗を落とすといったことが起こってきます。

原因薬剤の一部
―抗癌剤―
  • シスプラチン(ランダ®・ブリプラチン®)
  • オキサリプラチン(エルプラット®)
  • ビンクリスチン(オンコビン®)
  • ビンブラスチン(エクザール®)
  • パクリタキセル(タキソール®)
  • ドセタキセル(タキソテール®)
  • ボルテゾミブ(ベルケイド®)
―脂質異常症治療薬―

スタチン系薬剤 服用中止後、数か月で軽快すると言われています。

―抗結核薬―

エタンブトール 20mg/kg/day以上の過量が投与された場合におこる

―抗てんかん薬―

フェニトイン 血中濃度が高値であると起こり得る 10年以上の治療歴がrisk factor

―ビタミン剤―

ピリドキシン(VitB6)

電解質異常=低Ca血症

採血にて診断します。副甲状腺機能低下症やVitD欠乏状態が考慮されます。

過換気症候群

不安や緊張で突然胸が苦しくなって、息を吸っても吸っても収まらず、手足がしびれてくる状態です。10-20代の女性に多く見られます。過換気症候群が命に関わることはありませんので、まずは安心してください。

アミロイドーシス

「アミロイド」と呼ばれる異常蛋白が体の様々な部位沈着することにより、様々な症状を引き起こす病気です。神経に沈着すると足の先から始まるしびれ(末梢神経障害)、自律神経に沈着すると便秘や下痢、立ちくらみ、心臓に沈着すると足のむくみや息切れ、動悸などを起こします。脳外科領域では高齢者の後頭葉を中心にした脳出血はアミロイドアンギオパチーというアミロイド蛋白が関与した病気が有名です。

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