頭蓋内シャント(短絡)疾患
脳動静脈奇形
- 動脈と静脈が直接吻合してしまう先天的疾患と考えられています。
- 通常はあるはずの毛細血管が存在しないので、静脈側に動脈の強い圧が加わり脳出血を引き起こします。他に無症状、てんかん発作、脳内盗血により発見されます。
- 脳出血で見つかる頻度は10万人に1人と言われており、脳動脈瘤の1/10です。
- 出血症例では再出血率は最初の1年で6%, それ以降は2-3%/年で推移します。
- この破裂率は大きさ10mm以上の脳動脈瘤破裂率と同等程度の確率です。
- また初回出血での死亡率は10%、後遺症を残す確率は30%と言われています。
- 治療は開頭ナイダス(血管塊)摘出術、血管内治療、放射線治療があります。
- 開頭治療に際してはその難易度をSpetzler-Martin Grade(S-M Gr.)という5段階に分類される尺度で判定します。これはMRIと脳血管造影検査の結果で決定されます。
- S-M Gradeの内容はナイダスの部位・大きさ・流出静脈の流れる方向の3つです(下図)。
- Grade4,5は高難易度となり、Grade1-3と比較すると根治困難と考えられます。
- 血管内治療は開頭治療の前段階として行われ、流入血管を閉塞させることでナイダス摘出時の出血を減少させる効果があります。これは単純に出血量が減る以外にも手術野が血で真っ赤となりにくく、摘出手技自体にも有利となります。
- 放射線治療は大きさ3cm以下のナイダスを有する症例の根治と高難易度の脳動脈奇形に対する出血率低減目的で実施されています。治療完了まで2-3年を要し、その間は出血率は低下しないとされています。
特徴 | 点数 | |
---|---|---|
大きさ | 小( < 3cm ) | 1 |
中( 3〜6cm ) | 2 | |
大( > 6cm ) | 3 | |
周囲脳の機能的重要性 | 重要でない | 0 |
重要である | 1 | |
導出静脈の型 | 表在性のみ | 0 |
深在性 | 1 |
本症例のまとめ
出血発症のAVM
流入動脈(feeder) 後大脳動脈
流出静脈(drainer) 側頭葉の脳表静脈
ナイダス径 35mm(MRI測定)
ナイダス部位 右側頭葉内側(non-eloquent)
S-M Grade : 2+0+0= 2点
硬膜動静脈瘻
- 動脈が直接静脈に繋がる病気ですが、硬膜上に繋がるポイントがあるのが特徴です。
- 脳動静脈奇形との違いは繋がる部位が血管の塊(ナイダス)ではなく、点であることです。
- 非常に稀な疾患で10万人に0.29人と言われています。
- 症状は多彩でシャント部位により大きく異なります。
- 前方(海綿静脈洞)では眼球充血や眼球突出、眼球運動障害などの眼の症状が出ます。
- 後方(横-S状静脈洞)では耳鳴りや頭痛などの症状が出現します。
- 静脈側に強い圧がかかり脳表に向かって血流が逆流してしまうと年間出血率が7.4%と高率になります。この場合は治療適応となります。部位やステージによって血管内治療と開頭によるシャントポイント切断術を選択することになります。
- 様々なステージ分類方法がありますが、下記のBorden分類が簡便です。
Borden分類
シャント血流が
Type1 静脈洞という大きな静脈へのみ流れている(脳表の静脈へ逆流なし)
Type2 静脈洞と脳表の静脈に逆流している
Type3 静脈洞は閉塞してしまい、脳表の静脈にのみ逆流している
Type3が最も重症で治療の絶対適応となる。
Borden type 3 (静脈洞は順逆含め流出なし) → 治療適応